昼休み。太一さんがわざわざ僕の教室まで来てくれた。

こんなこと滅多に無い。
太一さんの昼休みは、同級生たちとサッカーかドッジボール(雨の日だと体育館でバスケ)、それで終わってしまうのだ。
僕に何かを借りに来るときはいつも10分休憩のときで、ゆっくり話すヒマなんて無い。

今までいつもそうだったから、すごく嬉しい。

「なあ光子郎、こないだ言ってたコト…俺、説明していいか?」
唐突に太一さんが聞く。
情けないことに、何を「言ってた」のか覚えていない。

「…こないだ言ってたこと?…なんでしたっけ?」
「ほら…その…」
言いよどむ太一さん。照れている。この人は感情がすぐ顔に出てしまってとてもかわいいんだ。
でも今は教室。それも僕の同級生がうじゃうじゃ居る。

だからこそ僕は言う。
「はっきり言っていただかないとわかんないです」

「…ほら、お前さ、ヤマト達と俺が仲良さスギだって言ってたろ…」
小声。顔を近づけて、でも、目は合わせずに。例の照れた表情で…

ああ、二人っきりだったら…なんて不謹慎なコトを考えながらも、
僕はその発言を思い出し、同時に、閨での言葉を覚えてくれていたこのひとをいとおしく思う。

少しからかってみたくなる。
「そんなこと言いましたっけ…すいません、憶えてないんです…」
僕の言葉を受けて、脱力する太一さん。
「…こーしろぉ…お前なぁ…俺がどんだけ真剣に考えたと思ってんだよー」
溜息交じりに、やはり小さな声でつぶやく。

……どんなに真剣に考えたんです?
嬉しいですよ、太一さん…
だから、 さらにうがってみる。

「いつ言いました?」
「いつってホラ、ついこないだ地区予選が終わった日に俺んちで―――…」
今度は本格的に照れてる。赤面して…
ホントにわかってないんだなあ、太一さん。
素直すぎて困ってしまう…

「──ああ、わかりました…すいません、思い出させちゃって」
「……まったくだ…」
セリフは強がってるけど、裏腹に赤面は収まってないし、勢いも無い。僕はその様を見て少し満足する。

「で、“説明”って何です?」
「俺…お前のこと好きだからさ。お前に嫌われんのだけはほんっとーにイヤなんだ。だから、ちゃんっと説明して納得してもらおーと思ってよ。」
ああ…ここは教室ですよ、太一さん。
あなたの後輩だって居るかもしれないのに。
そんなにはっきりと「好き」と言ってくれるなんて。

「俺さ、光が丘からお台場に引っ越してきて、そんでお台場小学校に転校したわけだけどさ、そんときヤマトも転校生だったんだ…」
…初耳だ。
ヤマトさんはただ単に同級生だって思ってた。

「まあそんとき、たまたま転入生が多くって、近所だったけどヤマトと同じクラスになったんだ。その日帰るときに、お互いすごく近くに住んでるってわかって…それからのつき合いなんだ」
「知りませんでした…」
「んで、空はそんときは違うクラスだったんだけど、ほら、クラブが一緒だったから。お台場に来てからすぐ仲良くなったんだ。‥光子郎、お前とも‥‥その、クラブが縁だったよな」
「ええ」

太一さんがクラブのことを“縁”だと言ってくれたことに嬉しさを感じるより先に、転校の不安と、同じクラスに近所に住む転入生が居ることの安堵感とを思い、僕は薄汚い嫉妬に胸をいたませる。

僕だって転入生だった、それも太一さんと同じで光が丘から。太一さんやヤマトさん、空さん…といった例のメンバーとはご近所どうし。しかもあのメンバーはみんな光が丘に住んでいたことがある…。

こういうとき悔しいのだ。僕はどうして太一さんと同じ学年じゃないのか…なんて。
誰をどうするというわけでも、考えたらどうなるというわけでもないのに。
そして嫌になる。自分という人間を。

‥‥‥‥

「光子郎?どうした?…話したって納得…できねえか。そだよな…」

「いえっ、あの、…すいません、…よくわかりましたよ、仲が良いわけ。」
不意を突かれたような形だったため“からかう”ことを忘れてしまう。

「そっか。よかったー!」

太一さんの表情が満面の笑みをたたえる。
少し暗い方向へ思考が行っていた僕だったが、この笑顔と「よかった」のワンフレーズで負の思考は消えてしまった。
(ちなみにせっかくの雰囲気はぶちこわしだ)

「…なあ光子郎、これからサッカーしに行こうぜ!」
すがすがしい表情で、“肩の荷がおりた”とでも言わんばかりに明るい声で。
クラスの人たちがその声に振り向くほどの大声で。

「今からですか?」
“あの泉が昼休みにサッカーかよ?”とでも言いたげな同級生たちの目が僕たちに降り注ぐ。

「おう!」
「…元気なのはいいコトですけど、…あと10分で昼休みの予鈴鳴っちゃうじゃないですか」
「何言ってんだよー。予鈴なんてムシムシ!あと15分だろ、充分できる!」
「……ま、次は数学ですし、…やりましょうか!」
「やった!光子郎とサッカーすんの久しぶりだよなぁ」
―――ええ。微笑んで、僕は太一さん以上にはしゃいでいる自分を見つける。

これで太一さんに僕が言ってほしかったコトを言ってもらえたらもっとはしゃいでしまうかも。

ねぇ太一さん、言ってほしかったな、「光子郎に嫌われてなくてよかった」って。
「ヤマトなんかよりずっと好きだ」って。
そのうち言ってくださいね、…楽しみにしてますから。

 

アトガキ

あああこんなヘボ文を最後まで読んでしまったアナタ、苦情メールをマジで送ってやってください。本当に。そしたらカンリニンも目が醒めるかもしれないので。(オイ )
ああしかしヤマトファンを敵にまわしそう。ついでに太一ファンも…あわわわ

みゆ 2000.06.