瞳の奥にこげついた景色。 石段があって――、 ―――――知ってる。 雪が降ってくるんだ。 「ゆき・・・・・・・」 知らず呟く。 降ってきた雪に、手をさしのべる。 それはかつての手ではなく、 「――大きい」 言ってから、あたりまえなんだけど、と苦笑する。 思ってから、何を思ったのか、と思う。 あの雪。 あの島の雪。 あの島の水。 あの世界からの、機械。 「デジヴァイス・・・・」 思って、さがして、 あれも降ってきたんだと思い出す。 一瞬あと、何を考えていたのかわからなくなる。 視界に知る人はいないが、 ある記憶のままに走り出す。 知ってる。 上にはキャンプ場にはそぐわない堂舎があるんだ。 「たいちさんがいるはず」 そう。 太一さんが居るはず。 上には、みんな居る。 ――みんな? 「Mornin',Koshy,」 「――――― あ・・」 飛び起きた光子郎の目前には、微笑する顔があった。 「....What?」 「なんでもないです」 おはようございます、と言って、光子郎も笑んだ。 相手は日本語を話せないが、大体の日本語の理解はできるので、 2人の会話は流暢な英語と片言の英語と日本語が飛び交う形になる。 「ホームシックだな…」 「Oh..homesick, aren't you?」 含み笑いが聞こえる。 「You hear me? …やだなぁ」 「Don't worry, I won't tell Mr.Yagami, and..」 “Mr.Yagami”が出てくるのは、2人が日本を発つとき、 太一が笑って「ホームシックになんかなるなよ」と言ったことが絡んでいる。 相手がテーブルを指し示す動作をするのでベッドから身を乗り出すと、彼は昨日買ったココアをいれていた。 「Drink it, Koshy. This cocoa makes you warm.」 warm…とは少し違うんだが、と思いながら、おとなしくココアを飲む。 「インスタントなのに…。良い味です。あったまる。えと…It tastes good, Thanks, Jeff.」 「No sweat. Come on, today!」 「ええ…がんばらないと。何を研究したのかわからないじゃすまされませんからね」 ホームシックになんかならなくても、あと二日で帰れる。 とにかく今日だ。 今日失敗すれば帰っても胃が痛むだけだろう。 ジェフが書いた英語を暗記しようとして唸っていた光子郎に太一が書いた英語の手紙(嫌がらせのつもりだろうか)は、昨日用意しておいた鞄の中にもうおさまっている。 「もうすぐ帰りますからね」 あの夢は吉兆だろう。 「もうすぐ帰りますからね…」 ――――― この日光子郎は、発表内容通りに会場に雪を降らせたのであった。 |
光子郎さんが何かの大会だか学会だかで出張するお話。
みゆ///10,06,2002 Sun.