蠱惑的な姿に目を奪われて、光子郎は手元を誤った。 「あちゃ」 独り言ちて、画面を見返す。 視線は思い人を追いかけたいけれど、今間違えて叩いた箇所を直さないと、後からひどいめにあう。 「キーを早く叩くっていうのも考えものだなぁ…」 苦笑する。 一瞬のことだったのに画面はひどかった。 「"print"が…」 ppppppppp。pの羅列を消して、いったん保存してしまう。 「太一さん」 髪を梳きあげる太一が、声の方を振り返る。 「…なんてかっこ、してんですか」 「汗かいたんだもん」 口を尖らせる太一に、光子郎はまた笑んだ。 休日の昼日中からシャワーを浴びてきたのだ、自分のパートナーの男は。 「びっくりしちゃって、ミスっちゃいましたよ」 「…だーってさ」 「僕がかまってあげなかったから寂しかった?」 む、と眉をつり上げる太一に、悪戯っぽい視線を投げかけてから、光子郎は台所へと向かう。 「クーラー入れるのはちょっと早いですからね…そうだな、氷をすぐ使えるように、用意しましょうね」 「そんなんじゃねぇよ!」 少し遅いつっこみである。 「何がですか?」 のらりとかわしてみる。 「……ばかやろー」 手を動かしながら、ふふっと笑う。 「ばか。何笑ってんだよ」 「あんまり可愛いから」 ますます太一の眉がつり上がる。 でも、バスタオル一枚では、恐怖を感じるどころではない。 冷凍庫に氷を作る容器を収めてしまって、光子郎は笑顔で太一を振り返った。 「ごめんなさい、でもそんなかっこじゃ怒られてる気がしないんですよ」 「………。」 太一もそれはわかっていたらしい。 長い仲だから、自分がこんな格好でいればこうなることがわかっている筈だ。 「お詫びに…何か作ります」 「………。。」 そんだけじゃ足りねぇよ、と言いたげな視線を受けて、光子郎は意を得たりとさらに笑顔になる。 「一緒に食べましょう? 今日は仕事を持って帰ってるわけでもないし、太一さんをほったらかしにしてたの謝りますから」 太一はまだ不機嫌そうである。 「スコーンと蜂蜜レモンとか、どうです? アイスティーつけて。つくりたての氷を使ったアイスティー、美味しいですよ」 極上の笑顔で、少しずつ切り崩していく。 「紅茶、何がいいですか? コーヒーって気分じゃないでしょ? アールグレイかオレンジペコ…かな」 「良いほうのグラスに入れて」 「作ってる間に晴れるといいですね、ベランダで食べたらちょっと暑くても美味しいでしょ?」 ちょっとずつ作業しながらまくしたてて、太一の方を振り向くと、案の定、まだ睨んでいる。 「太一さん」 語尾に思いっきりハートマークをつけて。 やっと、近づく。 頬に、触れる。 涙目の太一を上向かせて、唇ではなく、首を吸う。 てっきり唇を吸われると思っていた太一が、残念そうに、ゆっくりと背をかき抱くのを感じて、光子郎は太一の背で笑う。 (止まりそうに、ないな) 「太一さん」 目をまっすぐに見つめて、今度はちゃんと口づけた。 お菓子ができたのは、結局夕方だった。 アイスティーより暖かい紅茶が飲みたいと光子郎が言い出して、氷は持ち越しとなった。 レモンを蜂蜜に浸しているところで、太一が口を開いた。 「そういやパソコンつけっぱなしじゃねぇの?」 「あ、…勿体なかったですね」 言いながら、光子郎はちらりと半裸の太一を見て、 「ま、休日ですしね。ごめんよ」 まったく意味の無い言い訳を、愛機に投げかけてみた。 |
甘甘で。
2000ヒット御礼。
設定としては…25歳くらい?かな
みゆまいら030615