靴に足を入れて、2、3度踏みならせば外へ出られる。
財布を確認。
鏡でマフラーがおかしくないか確認。
色素の薄い髪が程よくハネてるのを確認。
「いってきます」
暗闇に小さく投げかけて、ドアを開けて、そしてしめる、それから鍵を閉めて。
牙城と言ってもいいのかもしれない、掃除をしたのも、食器を片づけたのも、自分だ。
いまから、夕飯の買い物に行くのだ。
なにが安価なのかをチラシで確認している。
音楽を一通りやり終えた後で行くと、店の生ものは大抵が3割引か半額だ。

今夜は何を作ろうか、そう思いを馳せながらカゴに挽肉やらつみれやら切り身やらをぽいぽいと入れていくのは単純に楽しい。
主夫になる才能でもあるのではないかと思う。
環境が人を育てるというのとは、違うと思いたい。
ヤマトはそうやって日々を過ごしている。
多才なのかは知らないし関係ない、音楽をやり通しながら勉強をし、勉強をしながら主夫業の腕を磨いている。
(親父がほんとの夫みたいなもんだからかな…)
ヤマトはそこで溜息などつかない。
自分のためだけでなく、父のために料理を作るのが楽しくてしかたないのだ。
だから生ものを貯め込んだ冷凍庫を、宝箱のように開く瞬間は至福のとき。
そんな中学生居ないと冷やかされようが、そうなのだからしかたがない。

(ああ今日は刺身が安い…)
今夜なにを作るかは決めていない。
父の帰りはいつもわからない。
今夜帰ってくるのかも、本当にはわからない。朝は帰ると言ったのに、夕方には東北へ行ってくるなんて言い出すことだってある。
そんなときのいたたまれなさにも、もう慣れた。
慣れたと言うより、乾いたのだろうと、自分で思う。
いたたまれないという感情を受け付けなくなって、強くなったんだと。

刺身もカゴにぶちこむ。
カゴは笑うくらいに生ものばかりだ。
これに牛乳とチーズとビールが加わるのが、なんとも笑える。
(つまみにもチャレンジするかな…なんか良いのないかな。でもそもそもつまみって…どんなんだ)
そこまで考えて、酒飲み本人に聞いてみればいいじゃないかと思う。
本など買うのは面倒だ。少なくとも今日は。明日になれば買う気になるかもしれないが。

今夜なにを作るかは決めていない。
21時をまわっても連絡が無いのだから、父は帰ってくるのだろう。
とにかく早く帰って、宝箱を開けてみて、それから決めようとヤマトは思った。
帰ってからのお楽しみ、記憶している宝箱の中身は思い出さないように努め、帰路を急いだ。


初めて、父ヤマで小ネタ…!
主婦ネタ…!
な、なんか幸せ。
泉監はほんわか萌え推奨ですから!
(ここぞとばかり無駄に主張)

帰宅したら父が「鍵が無い〜」とかってドアの前で寒そうにしてたらなお萌え。<書けよ。

みゆ 04.1.24.Sat.