はふ、と息継ぎして漏れた言葉はまたも「ばか」だった。
僕はどうしてこう太一さんに辛い思いばかりさせてしまうんだろう。
抱き締めてキスをしてまた抱き締めて、それだけで通じるわけがないのに、そういう行為で通じるだろうと甘えてしまって、そして傷つけてしまうんだ。

「ごめんなさい、待たせてしまって、本当にごめんなさい」
「ばーか。…ほんと最低」
あああ。逆効果?…それとも…期待が大いに含まれてるのだけど、拗ねてるのかな。
それとも妬いてるのかな。僕が一人でこんなに遅くなるわけはないと、知っているんだから。

ああ、また黙ってしまった。
は、と浅くためいきが出てしまう。
素直に、言わなくちゃ。

「あの、たくさん、ごめんなさい。今ためいきついちゃったことも、うしろめたくて黙っちゃったことも、謝ります」
見上げる目は先程の一瞬の涙でまだ潤っている。
「そんだけ?」
謝ること、たくさんある。
「連絡しなかったことも」
「メールでよかったんだぞ、このばか」
あ、嬉しい、かも。お酒が入ってるからかな。 すぐ、答えてくれた。
「…ごめんなさい」
「それから?」
一番謝りたかったこと。できれば、誠心誠意、てのが伝わればいいんだけど。
「ずっと一人で待っててもらっちゃった…」
「うん」
「ごめんなさい、太一さん」
「…うん」
うつむき加減で、それでもすぐに許してしまう。
やっぱりお酒が入ってるからだろう。普段ならこうはいかない。
「…もっかい、キスしてもいいですか?」
「ですか、じゃない」
「…じゃ」
お言葉に甘えて、とばかり、ゆっくり、やさしく、唇をねぶる。
じゅうぶん感じさせてから、そろ、と背中で手を動かすと、明らかに反応した。
ゆっくり唇を離してから、目を覗いて言う。
「ベッドに行っても?」
こくん、とうなずく様はまるで恋する少女。アルコールの力にはこれまで恐怖しか抱かなかったけれど、今日のは感謝したいほどだ。
至極優しく、丁寧に、あんまり執拗にしないように、太一さんの体に沈んだ。

−−−−−−

アルコールに感謝するのはまだ早かった。
ベッドで太一さんは、普段なら絶対に口にしないことを話してくれたのだ。
朝には忘れているだろうけど、僕は忘れない。これが太一さんの本音だと思って、重々気を付けようと思うからだ。

太一さんいわく、
「ぜんぜん帰ってこないし。
遅く帰ってきて、次の日の朝、起きたときにはもう出てるし。
しかも洗濯も食事も食事の片づけも全部やって。
一人暮らしじゃねぇんだぞ。
俺にちょっとは甘えろっつーの。光子郎のバカ!」
…こんなことを言われたら、もうどうしようもないほど、狂おしくいとおしく思うのは当たり前。


僕はその次の朝早速寝坊して、太一さんに叩き起こされた。
もちろん、僕はそれで幸せ。




05.07.22 脱稿後すぐ書きたくなったもの。