規則正しく、リズムを刻んで、走る。
呼吸と、腕と、足音で、リズムをつくる。
かかとで着地して、指で地面を蹴る。
汗が落ちるのを楽しむ。
目に入りそうになったら、腕のリズムを狂わせるけど、手でぬぐう。
それの繰り返し。

たったったったっ。

滅多に、知ってる奴には会わない。
ほかにもスポーツやってる奴くらいいそうなもんだけど、
走ってる人の中に、同年代の奴っていない。
お台場に住んでる人ってのがそもそもあんまり居ないんだし、
当たり前といえば当たり前なのかもしれないけど、
みんなもっと走ったっていーじゃん。なあ。

たったったっ。

走ってる時間は、ちょっとずれたりもするけど、
いつも大して違わない。
顔を覚えたのは、
犬の散歩をする小学生三人、
ふたりでウォーキングしてる中年夫婦二組。
べつに目で挨拶したりとかはしないけど。ただ顔を覚えただけ。
もっとたくさんの人に会うけど、顔を覚えたのは、たったこれだけ。

たったったったっ。

お台場っていろんな人がいる。
俺が走る時間だと、観光に来てる人もまだたくさんいる。
デックスまでは行くから、いろんな人を見る。
そうすると、わかるんだ。
自分がどんだけ、あいつのことを考えてるか。

たったったっ。

リズムは崩さない。
視線を動かすだけだ。
年上のひと、「清潔感のある」とでも言おうか、そんなひとを見つけると、ずくりと焦点が合う。
一瞬だ。
ヒトの視界は決して広くない。
一瞬で消えるその男の姿を、俺は頭のなかで見つめ直す。
…あいつになる。

たったったったっ。

リズムを刻む。
首筋がすこしひんやりする、そこに後味の悪さを乗せる。
俺って年上がすきなのかなぁ。
あいつは年下だもんなぁ。
…追っかけてくんのを楽しみにしてんのか、
それとも、いつか並ぶ日を楽しみにしてんのか。
…まあ、どっちも一緒か?
年上のひとがすきらしい。
腕を振る。
リズムは崩さない。

たったったっ。

焦点が合うひとは、一人とは限らない。
今日は、すごい。
俺はどんだけ、あいつのことを考えてるか。
今日も、また思い知ったよ。
こんどは、ひんやりしない。後味も悪くない。前へ。脚が前へ、連れてってくれる。

たったったったったっ。

リズムが崩れる。
腕を振る。
クールダウンとか、いつもは考えるんだけど。
今はそうゆう状態じゃ、ないんだよな。

「こーし…」
「太一さん!」
偶然なんだけどさ。
俺のほうが、見つけるの、早かった。勝った!
けど、呼び止めるのは、あいつの方が早かった。負けた。

「はー!しんど!ちょっと…えーと、歩きながらでいい?」
「はい、もちろん」
クールダウン、できるかなぁ。
いちお、俺はこいつのこと、ほんとに、すきなんだよ。
走ってたからか、それともこいつに会ったからか。
ああ、顔が熱いや。暑くてたまらない。