ピピピピピピピピ

(目覚まし? ──どうして鳴るんだ…)
光子郎は重い頭に響く電子音にうんざりしながら目を覚ました。

横で太一がもそりと動く。
思うまに、太一の腕がにゅっと伸びて携帯電話をかっ攫った。
音が止まり、光子郎は掛け布団を奪われる。太一が上半身を起こしたのだ。

「っし!」
かけ声ひとつ、太一は布団を剥いで床に降り立った。
横の光子郎が目を覚ましていることには気付いていないようだ、光子郎はまるで無視されている。
(僕を起こすつもりは無かったんだろうな。でも)
隣で寝てるんだから、目覚ましで目を覚ますのは当たり前だ。
そんなことも失念するほど、太一を夢中にさせているのは何なのか。
光子郎には、太一がなにかを楽しみにしているらしい空気が伝わっていた。
だから口を開いた。
先に起きてるよ、の一言(できるならキスも付けて欲しいくらいだ!)も無く部屋を出ようとする恋人に対して、随分弱腰な言葉ではあったのだが。

「…おはよーございます」
弱々しい語気だった。
じっさい眠かったのだから、弱々しいのは当然だった。
光子郎には逆に有難かった。太一の神経を尖らせない程度に、自分が目を覚ましたことを伝えたかった。

「…おはよ」
太一も少し弱い語気で言葉を発した。
そしてすぐに次の言葉を言った。
「あー…俺、起こしちゃった?」
わり、と小さく言ったのが光子郎に聞こえるくらいの場所まで、かれは戻った。

光子郎はそれにほっとして、次の言葉をえらんだ。
「きょうは、何の日なんですか?」
それに太一はすこし驚いたようで、少し間があいた。そのあと、にっと笑った。
「光子郎には、わかるんだな」
さすがに光子郎は照れてしまった。そんな返し方をされるとは。
その間に、太一は答えを重ねた。
「今日から、夕方にサッカーやんだよ」

「今日から?夕方…」
おうむ返しに光子郎が言う。
光子郎はまだ寝ぼけ顔なのだろう、太一は小さい子を見るような目で光子郎の目を覗き込む。
「そ。」
よくわからないままに、光子郎はとりあえず半身を起こした。
「今日は何月何日だ?光子郎」
「えっと…9月7日」
昨日、6日は日曜日で、太一は大学のサークルとはまた別のグループで練習試合をしたのだ。
だから今日は、昨日の次の日。7日で、月曜日だ。

光子郎の答えに、太一はまたにんまりした。
「でもって、月曜だろ? 今日からクラブ再開。つまり、小学生の指導再開なんだ」
「ああ!そうですか」
光子郎もやっと笑顔になれた。
学生の夏休みはまだもう少し続くが、小学生はもう夏休みが終わったのだ。
太一がコーチとして行っている小学生のサッカークラブは、夏休み中は不定期の練習だった。
大学生のコーチに寛大な監督が大目に見てくれたので、この夏、太一は自分の練習や光子郎との予定に時間を使うことができた。
それも昨日までで、今日の夕方からはコーチ業に復帰ということなのだ。

光子郎はすこし顔を傾けて太一に近づいた。
「じゃあ、今日からまた楽しいですね」
「まあ、な」
「これからすぐ、走りに行くつもりだったんですか」
「…うん。」
「僕も行こうかな」
「え」
「置いてかないでくださいね」
「…うん、まあ、あんま無理すんなよ」
「太一さんもでしょ」
にっこり微笑んで、目の前の頬にキスをした。

昨夜は嫌がったりして。
この所為だったか。
光子郎は色々納得して、心の中で嘆息した。
それから、布団を剥いで、降り立った。

太一が抱きとめてくれたので、眠たかったけれど、よろめかずに済んだ。
ありがとうございます、ちいさく言うと、太一がキスをくれた。
「忘れてた。お前のこと起こしちゃったんだったな。ごめん。」
すこし驚いていいえと言う光子郎に、太一はさらに続けた。
「それから、お前のこと、置いて行こうとか、思ってないからな。いちお言っとく」
照れて言うので、光子郎はもう一度ありがとうを言ってから、ゆっくりキスをした。
眠たいけれど、もう起きよう、そう思いながら、太一が目を閉じてされるがままにするさまに興奮しそうになるのを抑え付けた。
 


 



夏休み最後の日萌え第2弾
なのです。一応。

文中にちょっと書いてますが
大学生同棲期のつもり

仕事がきつかったときに
このネタでひとり萌え上がっていました…
救えないOLだ。

20050904