※エロめのキス注意



 およそ一ヶ月ぶり、ひとときの甘い時間。太一は光子郎を奪うかのように、ひどく溺れた。そういうことは今までにもあったけれど、今回は何がきっかけなのかわからない。だから光子郎は太一の名を呼んで、尋ねようとした。

 「たいちさん」

 太一は応えない。応えないまま、言葉を発した口を罰するようにかぷりと食らいつく。
 
 「……っ」
 
 口を塞がれた光子郎は、そのまま、太一の好きにさせておく。そのかわりに背から腰を撫で、太一をわずかに喘がせた。間近にある顔は切なく眉根を寄せてはいたが、目を閉じたまま、表情は変えたくないようだった。
 ややあってから、太一はそろそろと光子郎の口に進入し、歯をちろりと突く。光子郎はあえて動かない、すぐにキスに応えて太一の息を上げさせることもできたけれど、今日の太一の態度とそのキスのしかた、ギャップが愛おしかった。
 太一の舌は、歯を幾度か突き、舐めた後、光子郎がするように口蓋をゆっくり行き来する。その動きは光子郎の芯に訴えた。気持ちがいい、それだけではない。自分が教えたキス。それを太一がしてくれている。
 今度は別の意味で、太一の名を呼びたかった。太一を強く、抱きしめたかった。口は塞がれているから、名を呼ぶのは我慢して、太一の腰を抱き寄せた。

 「!」

 抱き寄せるだけ、そう思っていたのだが、太一はバランスを崩しそうになったようで、口を離した。
 もったいない、という本音が光子郎の頭を通り過ぎる。だからそのままぎゅううと抱きしめて、首を傾けて口付けた。深く、先ほどの太一のように口蓋を舐めてやると、ほどなくとろけるような表情になって光子郎に体重を預けてくる。

 「たいちさん」
 「……。」

 キスを一段落させると、太一は未だ溺れるようではあるものの、最初とは雰囲気が違っていた。

 「太一さん、あんなキスをしてくれるなんて、思いませんでした…」

 言い終わるか終わらないかのうちに、キスを落とす。それに目を細めた太一は、一呼吸して光子郎の体から離れる。

 「俺は…光子郎にも、きもちよくなって…ほしい」

 最後のほうは小さい声だった。ためらうような、恥らうような、そんな空気を出して、光子郎に口付ける。夢見心地で、光子郎はそれに応えてやる。舌を吸い、絡めとり、歯列を舐める。最初はゆっくり、やがて貪るように、奪い取るように。激しかった口付けをだんだん浅くしていって終わりを告げると、何とか姿勢を保っていたらしい太一の体から力が抜ける。

 「太一さん!」
 「……」

 慌てて体を支える光子郎に、太一が何事かを呟く。

 「なんですか?」

 太一は困ったように光子郎に視線を向け、そしてその視線を外す。

 「なんで…こんな……」

 その続きが出てこない。だが、既に紅潮していた太一の顔が更に赤くなるのを見れば、見当はつく。

 「ごめ…」

 しばらく何も言えなかった、その沈黙を太一が破る。力が出てきたらしく、光子郎の首に腕を回した。

 「すき。光子郎…今日は、それだけ…」

 そのまま、また体重が光子郎にかかる。
 できるかぎり、太一に負担をかけたくなかったのだが、そこまでされては抑えは効かないかもしれない、光子郎の頭によぎったのはそれだけだった。
 
 「ぼくも、太一さんのことが大好きです。」

 それだけを丁寧に口で答えた。あとは体の動くまま、お互いがお互いに溺れあった。


 



 

2008年に出した「2DAYS(SPECIAL)」の後日談エロとして、発行日だった夏コミのペーパー裏面に書きました。本自体はエロ無しだったんで、おまけです。
まだ時効ではないと思いますが、書いた本人が忘れてて、今日発掘して嬉しかったのでUPします。
太一が最後に言いたかったことは、「なんで(光子郎のキスは)こんなに気持ちいいんだ」っていう言葉なんですが、さすがに言えませんでした。ニヨニヨ
太一さんかわゆす
2010/06/06(原稿中)